中国の資本を使って日本を元気にする......
この強力な差別化要因があれば日本を変えることができる
産業再生機構を「ある意味、日本の官が運営するファンドのような存在」と捉え、アドバンテッジパートナーズ時代同様、日本企業の活性化を目指し、投資業務に携わってきた中野氏。その任務を終えた後も、自らの経験が活かせる場を探し求めていたという。
【中野】「正直なところ、欧米と違ってM&Aマーケットに厚みのない日本ではソーシング自体が困難だ、という認識が当時の私にはありました。そんな中で気持ちを揺さぶられたのがCITICグループからの話。ものすごい勢いで成長するマーケットである中国を活用して、日本企業ひいては日本を盛り立てていく......俗に言うチャイナ・アングルというこの差別化要因を耳にして、大いに興味を持ったのです」
CITICグループが中国を代表する金融集団である点や、1982年のサムライ債発行など日本における実績を保有している点に加え、当時のCITICキャピタル・パートナーズ・ジャパン(以下、CITIC)代表と、CITICキャピタル本体の社長イーチェン氏とが直々に参画を望んでくれた点等々も中野氏の心を動かした。しかも、欧米外資グループにありがちな中央集権的投資プロセスではなく、日本の現場での判断を最大限尊重することを約束された点も大きかったという。
【中野】「すでに1号ファンドは設立され、運営されていましたが、当時のCITICは銀行や総合商社からの出向メンバーで構成された寄合所帯。将来的な成長と成功を志すには、本当の意味でのチームをゼロから作り上げなければいけない。その大任をもゆだねてくれるという話を聞き、私の腹は決まりました」
国際的なバックボーンを持ちながら投資業務を営もうとすれば、当然様々なプレーヤーが関わってくるものだが、その中枢にいるチームは理念や志を共有したピュアな集団でなければいけない。これをゼロから作らせてもらい、なおかつ日本ローカルの事情に応じた意思決定もしていける。その自由度とバックボーンの巨大さ、信任の厚さが中野氏を動かした。そして、自身の参画を決めると、すぐに産業再生機構で苦楽をともにした伊藤政宏氏らを招聘した。
【中野】「このビジネスは人で決まります。しかも数で決まるのではなく、少数の人が何を思い、何を起こすか、で決まってくるビジネス。ですから、根底にある考え方や思いが近い人間を探し、選びました。この人ならば、と思える人たちに、ぜひ一緒に戦っていこうとお願いをしたわけです」
中国経済への懸念は承知しているが、その縮小スピードはゆるやか。
むしろ日本に対する信頼の上昇がマーケットの活性化につながる
では、中野氏は現在の市場や、国際的視点で見た場合の日本の情勢をどう捉えているのだろうか?
【中野】「まず日本国内のことをお話ししますと、先ほども申し上げたように、まだまだ欧米並みに厚みのある市場は整っていません。ただし、アベノミクスなど、日本政府が起こしている様々なアクションは、コーポレートガバナンスの変革を導き出そうとしていますし、それによるインパクトに高い期待を寄せてもいます。
今後はM&Aの事例が増えていくでしょう。そうなれば私たちPEが果たすべき役割、活躍できる場、というものがどんどん増えていくはずです。同時に、先が見えにくい世界情勢の中、『日本は信頼できる』という認識がグローバルに広がり始めています。今のところはまだ『Cautious』、つまり『注意深く見守ろう』というレベルでしかありませんが、日本に対してポジティブな思惑が動く潮流はたしかにあります」
では、チャイナ・アングルという差別化要因についてはどうなのだろう? 「中国経済が減速していく」という言説が高まる中、CITICが誇る最大の強みはどうなるのか?
【中野】「中国のスローダウンは不可避だと、私たちも見ています。これまでに中国が見せてきたような爆発的成長も影を潜めるでしょう。しかし、あくまでもこのスローダウンは過渡期ゆえのもの。成長率は縮小しますが、その速度はゆるやか。日本にとって絶好のマーケットである点にも変わりはありません。ですから私たちは今後もこの差別化要因を十分に活かしていけると確信しています。
一方、日本人の心に引っかかっているもう1つの側面にも触れておかなければいけません。日中関係の問題です。過去の歴史を振り返っても、両国の関係が予測困難なのは事実。しかし、こと企業活動にフォーカスすれば、過去の深刻な事態を乗り切って、日本企業は中国でも成果を上げてきました。今後何があろうと、ビジネスへの影響はさほど大きくないと考えています。
また、俗に言う『爆買い』の現象を見ても明らかなように、消費者としての中国人の感情は日本企業や日本製品に対して非常にポジティブになっています。報道などでは『爆買い』を問題視する場合もあるようですが、私は大局的に見れば好ましいことだと捉えてもいます。
経済成長の減速が始まろうとしているとはいえ、いまだ世界経済に大きな影響を与え続けている中国の消費者が、自らの判断で日本のモノを選び、購入し、自国へ持ち帰って自慢している。これほど有効なマーケティング効果は他にないはずです」ビジネス視点で客観的に見れば、やはりチャイナ・アングルは強固な優位性の源として機能する、というわけだ。
では、今後、どのような企業が、いかなるプロセスで活性化していくと中野氏は見ているのか。
これまで日本企業ではPEの活用が進んでこなかった。
しかし、だからこそ今後お役に立てる機会が加速度的に増えていく
【中野】「少子化などで国内市場には閉塞感が広がっていますが、私たちの目には可能性ある企業がその可能性を生かし切れていないだけだと映っています。とりわけ、これまでCITICが向き合ってきた中小規模の企業にその傾向は顕著です。多くの企業がアンダー・マネージの状況にある。
マネージメントしきれていないこの状況の要因は、経営者の能力の善し悪しとは無関係。多くの場合、人をはじめとする経営リソースの不足が招いた状況だと捉えているんです。今後M&Aの事例が増え、国際市場での日本への信頼感が増していけば、マネージメントを変革するチャンスは次々に巡ってきます。私たちPEがともにそのチャンスをものにするべく動く機会もどんどん増えるはずです」
中野氏はPEだからこそ果たせる役割、用いることの出来る手法、というものが多様にあるのだと説く。
【中野】「PEはまず、自ら株主となり、ガバナンスの後ろ盾になります。これがなければ、経営の変革や企業価値の向上を実現することなど不可能だと言っても過言ではありません。ただし、それだけで企業価値が上がるはずもない。企業を動かすにはお金、人、マネージメント・エクスパティーズの3つが必要です。これらを有効に提供できた時、初めてPEはその独自の役割、独自の強みを企業価値へと変換することが可能になるのです。
CITICは以上の要素すべてを提供しています。それによってこれまで中小規模で経営を営んでいた企業が、グローバルな局面でもビジネスを成功させたりしているわけです。すなわち企業変革のためには、十分な経営リソースが必要条件、ガバナンスが十分条件、この二つを同時に提供できるのはPEしかない。それを示すような成功事例を増やすことで、私たちは貢献の度合いをますます高めていかなければいけない、と心に誓っています」
経営者と対等な立場に身を置き、対話し、議論して
新たな価値創造に貢献したい人物に参画してほしい
レイズしている3号ファンドは規模にして250〜300億規模だと言われている。1号、2号を大きく上回る額を見ればわかるように、CITICはより多くの投資案件獲得を実現しようとしており、当然今後は新たな参画メンバーを求めていくことになる。だが、そこで見極めようとしているのは「能力の高さ」ばかりではないようだ。
「フィナンシャルな部分だけを見て投資するかどうかを決めるのが仕事だと思っている集団もいるが、自分たちは断じて違う」のだと中野氏は言い切る。それゆえに求める人材像にも強いこだわりがあるというわけだ。
【中野】「ビジネスについて、マネージメントについて、M&Aやファイナンスについて、様々なリーガルについて等々、PEの仕事をしていく上では幅広く奥深いスキルや知識が必要になります。このことは多くの方も承知しているようで、私たちの手元に届く参画志望者のレジメはどれもこれも本当に高水準です。ただ、私はジュニアクラスの採用時にも必ず言っている事柄があります。
我々は幾多の能力を駆使して成長のラダーを登っていくけれども、その先で待ち受けているのは企業の経営者の皆さん。そういうかたたちと対等な立場になって対話し、意見を交換し、その企業の成長を目指していくことになります。こういう方たちの心を動かす存在にならなければいけません。その時、最優先で問われるのはスキルや知識ではない。どれだけビジネスや経営に強い関心を持ち当事者として考えられるかです。
CITICが『この会社に投資しよう』と決断する際の最大の要因も、『この会社やビジネスに強い関心を持ち、価値創造ができるかどうか』なんです。そういう気持ちを持っているかどうかが最も大切なのです。また、どんなにレジメ上の能力値が高い方でも、目先のタイトルや待遇にばかりこだわるようなかたは、少なくともCITICには向いていません」
最後に中野氏は笑いながら、こう付け加えた。「CITICほど個性的な人間の集まりもない」と。個性もまたPEの仕事を担う者には不可欠な要素。経営者の心をとらえ、企業を動かし、潜在能力を浮上させて企業価値を上げ、日本を活性化していく。そこに愛情と情熱を持てる個性派を求めているのだ、と中野氏は強調。「面白い人と会いたいと思っています」と語った。