はじめに
AI(人工知能)やDX(デジタルトランスフォーメーション)が急速に浸透する昨今、企業経営、行政運営、そしてコンサルティング業界においても、現場の働き方や提供価値の構造転換が起こっています。データ分析、レポート作成、リスク評価といった領域では、AIによる業務の代替や補完が始まっており、効率性や精度の向上、コスト削減といった成果が実際に表れています。
しかし、私の所属するファームが実施したアンケートでは、クライアントの76%が「AIを説明責任が可能な範囲で活用しつつ、かつ人間の監督が入ったコンサルティング」に信頼を強めると答えています。これは、単にAIを使えばよいとは限らず、「どのように、どの範囲で、どんな判断をAIに委ね、人間がどのように責任を持って判断しているか」を明示できるサービスが、信頼構築の鍵となっていることを示しています。
このように、AIと共存する社会では、もはや「人間の役割を再定義する」ことが求められています。すなわち、AIにできない、人間でなければ提供できない価値――それは文脈を読み解く力、文化や感情を汲み取る思考、倫理的な判断と責任判断、そして個別最適化された提案力などです。コンサルタントは、AIによって画一化されるリスクを回避し、「画一化しない人間の知見」を次の武器として再構築しなければなりません。
本稿では、まずクライアントおよびコンサル業界におけるAI活用の現状を整理し、次にAIによって代替されている業務・ソリューションを明らかにします。そして最後に、AI時代のコンサルタントが提供できる「人間の知見価値」について論考します。
本論
1. クライアントとコンサルティング業界におけるAI活用の現状
現代のグローバルコンサルティングファームでは、AIの導入が当たり前になりつつあります。統計によれば、コンサルティング業界に属する企業の62%以上がすでにAIを導入しており、そのうち多数が「今後5年以内に業界構造が大きく変わる」と見ています。具体的には、データ分析の高速化やレポート自動作成、さらには戦略提案ドラフトまでAIが関わるケースも増えています。
また、クライアント側にもAI導入の機運が高まっています。KPMGの調査では、3分の2以上のクライアントが定期的にAI技術に触れ、意思決定や業務効率の向上で効果を実感していると報告されています。一方で、「透明な説明責任」への要求も並行して高まっており、AIのブラックボックス化を懸念する声が根強いのも事実です。
具体事例として、マッキンゼーは社内に構築したAI搭載プラットフォーム「Lilli」により、蓄積されたナレッジをAI検索・再構成し、提案書作成や意思決定支援に活かしています。EYも「EY.ai」を発表し、各種AIツールを実務に統合している他、Deloitteは社内生成AIプラットフォームを通じて調査レポートやドラフト提案を自動化しています。
さらにブティック型のAI活用コンサルも登場しており、たとえば戦略立案に特化したAI支援ツール「Xavier AI」や、提案書自動生成AI「Perceptis」などが提供され、これらはAIによる自動作成と人間の構成力を組み合わせた新しいコンサルスタイルとして注目されています。
2.AIによって置き換えられつつあるコンサルティングソリューション
AIは主に以下のような領域でコンサルティング業務に導入され、人的作業の代替や支援に活用されています。
- 提案書や報告資料のドラフト生成:大量の文章データをAIに与えて構成案を生成し、人間が最終確認・校正するスタイル。
- 市場調査やデータ分析の効率化:膨大なデータ収集やマクロ指標分析をAIが自動で実施し、分析者は洞察創出に集中。
- 監査や会計業務におけるリスク検知:データの異常値やリスク指標をAIで自動抽出し、監査人は解釈と判断に注力。Deloitteでは、この方式により監査時間が最大25%短縮されたとの報告もあります。
- 投資助言やポートフォリオ提案の支援:欧州では、AIと人間の判断を組み合わせた助言のほうが純粋AIよりも実効性が高く、受入れられやすい傾向があります。
これらの自動化・補助により、コンサルタントが担ってきた「ルーチン業務の実行部分」は置き換わりつつあります。一方、戦略立案や構造変革、組織・文化への対応など、"人間らしさ"が求められる領域への移行が進んでいます。
個人的にはさすがに提案書や報告資料のドラフト作成においてはまだ期待する水準には来ていないと感じていますが、もしかしたら使用するプロダクトやプロンプト次第では一定の品質に到達するのかもしれません。
3. AI時代のコンサルタントが提供すべき価値とは
AIに任せるべきこと、人間が担うべきことを明確化することが重要です。具体的には以下が挙げられます。
- 説明責任(Explainability)と説明の透明性:AIのアウトプットに対して、「AIがどう判断したか」を人間が解説できる体制が、クライアントとの信頼関係の基盤になります。
- 文脈理解と対人対応能力:企業文化や法制度、政治文化などを踏まえて納得感ある提案を組み立てるのは、人間のコンサルタントの強みです。
- 倫理的判断と責任:AIは予期せぬバイアスをもたらす可能性があります。倫理的判断や責任追跡のための意思決定は、最終的には人間が担うべきです。
- 創造性と共感:AIは過去のパターンから構成するため、まったく新しい発想や、クライアントが感情的に共鳴する提案・行動変容を促す構造は、人間にしか作れません。
- 「ハイブリッド人材」の価値:AIツールを使いこなしつつ、創造性や共感・倫理判断を発揮する「ハイブリッド型コンサルタント」は、今後の市場で価値が高まる存在です。
気を付けないといけないのは、これらの価値の前提においては「コンサルタントとしての能力」が前提にあるということです。当たり前のことを言っているように聞こえるかもしれませんが、AI時代においてはこれまで若手スタッフが担ってきたような単純な調査タスクや案件がどんどん失われていきます。従来はそうした業務を通じて身に着けたスキルや知見をもとに、コンサルタントとしての総合力を高めていくのが一般的でした。シンプルに言うと、OJTで学ぶ機会なしに、且つAIを活用したコンサルタントになれ、と言われているようなものです。筆者も含めて、現在コンサルタントである人間にとっても、AIにはない価値を出せなければ淘汰されますが、これからコンサルタントを目指す方にとってはAIの普及によってハードルが上がるのは間違いないでしょう。
終わりに
AIとDXが進化し続ける中、コンサルタントがアイディア提供において差異化するためには、「AIと人間の強みを統合するスキル」が不可欠です。つまり、AIが可能にする効率性と精度を最大限活用しつつ、人間が持つ文脈理解、倫理性、創造性を組み合わせることで、より高度で安心できる価値をクライアントへ提供できます。
AIによって画一化される危険を回避し、代わりに「画一化しない知見」を差別化の武器とすること――それこそが、これからのコンサルタントが築くべき存在意義です。
また、AIはコンサルティングのこれまでの主たる事業構造――人工ベースのビジネスを変える可能性があります。これまで自分たちが担ってきた業務の一部をAIに転換することで、より収益性が高く、人による業務の変動を抑えることができるかもしれません。そうした観点からもコンサルタントとしてAIを理解し、活用し、そのうえで異なる価値を出していくことが求められるのではないでしょうか。