現役戦略コンサルタントコラムコンサル『辞めたい』はなぜ起こる? 現場のリアルと次のキャリア戦略

はじめに

コンサル『辞めたい』はなぜ起こる? 現場のリアルと次のキャリア戦略

コンサルティング業界は、華やかなイメージと高い報酬水準で多くのビジネスパーソンを惹きつけてきました。一方で、「辞めたい」「続けられない」と感じる若手コンサルタントの声も後を絶ちません。新卒でコンサルに入社した人材が3年以内に業界を去る割合は決して少なくありません。なぜ、憧れの職種だったはずのコンサルタントが離職を選ぶのでしょうか。

本稿では、「能力」「環境」「自己実現」という三つの観点から、現場のリアルな事例を交えつつこの問いに迫り、ネガティブな理由だけでなくポジティブな動機も含めて分析し、次なるキャリア戦略を考察いたします。

本論

1. 能力の壁──自信喪失と自己否定、そしてスキルアップの実感

コンサルティング業界では、論理的思考力、情報処理能力、プレゼンテーション力、チームマネジメントなど、多岐にわたるスキルが日々求められます。入社当初はポテンシャル採用で迎えられますが、プロジェクトにアサインされればすぐに即戦力が期待されます。
Aさん(27歳)は戦略系ファームに新卒入社し、2年目に大型M&Aプロジェクトの分析担当を任されました。しかし、(ある意味当然ながら)業界知識が浅く、上司からのフィードバックは「当たり前すぎる」「考察が浅い」と厳しいものでした。毎晩終電まで資料を練り直し、週末も自習に費やしましたが、評価は上がらず、ついには「自分はコンサルに向いていないのではないか」と感じ、退職を決意しました。
一方で、Dさん(29歳)は「ここで身につけた思考力と分析力はどの業界でも通用する」と確信し、自らのスキルが一定の水準に達したと判断してキャリアチェンジを選びました。より事業に近い立場で意思決定を行いたいという前向きな理由から、外資系メーカーの経営企画に転職しています。
上記では新卒の例を挙げていますが、能力の壁は特に事業会社からの転職者の前に立ちはだかることが多いです。それは事業会社出身者の能力が絶対的に不足しているのではなく、これまで事業会社で鍛えてきた能力と、コンサルで求められる能力が違うからです。例えば優れたマラソン選手が短距離走では必ずしも同じくらい活躍できないように、求められる能力が異なればこれまで活躍してきた人であっても活躍できず、能力の壁にあたって転職を決断するケースはあります。

2. 環境の過酷さ──長時間労働と評価プレッシャー、そして限界の自覚

もう1つの大きな理由は、労働環境の厳しさです。特に外資系や大手総合ファームでは、納期に追われるプロジェクトが常態化しており、労働時間のコントロールが困難です。
Bさん(30歳)は育児中のパートナーと生活していましたが、平日は終電帰宅、土日もクライアント提出資料の修正作業が続き、家庭との両立が限界に達しました。マネージャー昇格を目前にしていましたが、「このままでは人生を失う」と退職。現在はIT系スタートアップの経営企画として働き、リモートワークと柔軟な勤務体系の中で家庭とのバランスを取っています。
一方、Eさん(32歳)は「この働き方は一生は続かないが、若いうちに限界までやり切って、次に活かしたい」という明確な目標のもと、4年間で複数の業界を横断したプロジェクトを経験した後に卒業。現在はPEファンドで企業のバリューアップに従事しています。
とはいえ近年、コンサルティングファームの労働環境はだいぶ改善してきたと感じています。上記のような理由で辞める人はかなり減少傾向にあるのではないでしょうか。ファーム各社は働き方改革を率先して推進し、これまでになかった柔軟な制度を導入しようとしています。但し、コンサルタントに求められる価値は変わらず、解くべき課題の難易度はむしろ上昇しているため、これまでは長時間労働でカバーしてきたやり方が使えないことが、逆に成果に対する更なるプレッシャーになっている可能性はあります。

3. 自己実現のギャップ──やりたいこととの乖離、そして次の挑戦へ

コンサルに憧れて入社したものの、「思っていた仕事と違った」という理由で辞めるケースも多くあります。特に社会課題の解決や新規事業創出といった目的意識を持って入社した若手に多く見られる傾向です。
Cさん(26歳)は「途上国の教育支援にビジネスで関わりたい」という想いから、グローバルファームに入社しました。だが、実際に配属されたのは国内大手メーカーの業務改善プロジェクトで、ひたすら業務フローの棚卸しやヒアリングを繰り返す日々。「社会を動かすインパクトが感じられない」と感じ、NPO系スタートアップに転職。今では現地と日本をつなぐプロジェクトマネジメントに従事しています。
また、Fさん(28歳)は「大企業の変革より、自分でゼロから価値を創りたい」との想いから、3年で退職し、自ら起業。コンサル時代に得たロジカルシンキングと営業力を武器に、少人数で市場に挑戦しています。
コンサルは多様なプロジェクトが存在しますが、若手が希望するテーマに必ず関われるとは限りません(これはファームにおける自由度というだけではなく、そもそもクライアントがそうしたテーマをファームに依頼するかどうか、という問題もあります)。特に「社会的意義」や「新規性」を重視する若手世代にとって、ギャップは離職のトリガーとなる一方、それが次のキャリアの明確化につながる場合もあります。

4. 年齢層ごとのキャリア意識の違い

20代前半〜30代前半の若手層では、「成長環境としてのコンサル」を経験し、自分の軸や強みを見極めた上で、次のステージに進もうとする動きが多く見られます。「3年で卒業」「若いうちに修羅場をくぐる」といった考え方は、この層に多く共通しています。自分の力を試すため、より裁量のある事業会社やスタートアップ、あるいは起業への転身もこの層でよく見られます。
一方で、30代後半以降になると、ライフステージとのバランス(結婚、育児、介護など)や将来の安定性を意識したキャリア選択が重要になります。マネージャーやパートナーとしての長期的ポジションを目指す人もいる一方、「このペースでは体が持たない」「別の専門性を深めたい」といった声も聞かれます。30代後半では、専門領域を活かしてインハウスの戦略担当やCFO候補として転身する人も多く見られます。
また、40代以降の中堅層では、「社会への還元」や「自分なりの働き方」を模索する傾向が強くなり、地方企業支援や事業承継支援、大学機関との連携業務、NPO・自治体との協働など、より実務に根ざした領域への転身も増えています。仕事を通じた意義や貢献を重視し、若手のメンターや組織開発の役割を担うケースもあります。
このように、年齢やライフステージによって「辞めたい」という気持ちの背景や次に求めるものは大きく異なっており、それぞれのタイミングに応じた戦略的キャリア形成が重要です。

終わりに

「辞めたい」と感じる理由は人それぞれですが、多くの場合は「能力」「環境」「自己実現」のいずれか、あるいは複数の要素が絡み合っています。コンサルティング業界は挑戦と成長に満ちたフィールドであると同時に、苛烈な競争と高いハードルも伴います。重要なのは、「辞めたい」と感じたときに、自己否定に陥るのではなく、キャリア全体の文脈の中で冷静に現状を見つめ直すことです。
そして、辞める理由が必ずしもネガティブなものである必要はありません。スキルが一定レベルに達した、次に挑戦したい分野が見つかった、自分の志向と業界がずれていると気づいた──こうした前向きな判断もまた、成熟したキャリア形成の一部です。
コンサルで得られたスキルや視座は、異なる業界でも必ず活きます。むしろ、コンサルを経験した上で自らの「軸」を明確にし、次なるフィールドへと踏み出すことこそ、現代的なキャリア戦略と言えるでしょう。

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