いろいろな面で「違い」が存在するベンチャーと大企業とを、結びつけていくのが大企業チームだと聞きました。実際、ニュースなどでも最近は大企業とベンチャーが手を結んだり、M&Aが成立したり、という情報を時々見受けるようになりましたが、状況は変わりつつあるんでしょうか?
【本田】経営感度の高い一部の大企業では、少し前から有力なベンチャー企業とアライアンスを行ったり、投資やM&Aを実行したりしていました。また、そこまで進んでいないところでも、大企業の方からベンチャーに歩み寄ろうと考え、どうすればいいのか戸惑っている段階のところもありました。しかし、大半の大企業では「まだまだ意識が低い」と言えると思います。
【岡田】一方で、ベンチャー企業との取り組みを始めようとしている大企業においても、なかなか事業提携が進まないというケースがあります。事業提携を進める上でも、事業提携プランを考える力や事業として推進する力が必要となりますが、かといって適切な教育プログラムがあるわけでもないので、当惑しているケースです。
【本田】ですから、私たちの事業部が行っている大きな取り組みは大きく分けて3つです。
1つはイノベーションを目指す大企業に、ベンチャー企業の情報を提供し、ベンチャー企業との提携を進めること。2つ目は、大企業で新規事業やベンチャー企業との提携を推し進められる社内イノベーターを発掘し育成していく手伝いです。もうひとつは、それを支える制度設計のサポートです。ベンチャー企業への投資体制であったり、人事評価制度だったり。
「単にベンチャーと大企業とを引き合わせるだけではダメ」ということなのでしょうか?
【本田】厳密にいえばケース・バイ・ケースです。先に申し上げた経営感度や意識の高い大企業ならば、すでに自分たちの努力によってベンチャーとのコラボレーションに成功しています。しかし、「これから挑む」ような企業の場合、自社の社員に教育が必要だということにも気づいていないこともあります。ベンチャーと大企業では、文化も価値観もスピードも何もかも違いますから、ただ引き合わせるだけでは相互に理解し合えないまま終わってしまう場合だって珍しくないんです。
【岡田】起業家の多くは非常にエネルギッシュですし、大げさに言えば生き死にがかかっているかのような危機感のもとで物事を判断し、実行していきます。大企業の水に慣れてしまっている人たちとは、まったく違う存在なんです。
ですから、通訳のような存在抜きで、ベンチャーと同じ情熱や志やスピードでビジネスを語れる人材を大企業の中に育てていかなければ、うまくいかないのです。具体的には社内ベンチャーの公募に応募した人たちと起業家とを会わせて語り合ってもらうなど、様々な手法で育成を進めています。
【本田】起業や新規事業の成否を決めるポイントは、マインド、ネットワーク、経営スキルの3つだと考えているのですが、これまでコンサルティングファームやインキュベーション企業が行ってきたベンチャー支援は、経営スキルの部分的な提供に留まっていたと思うんです。それでは十分でな支援とは言えない。
DTVSではマインドやネットワークにもスポットを当て、ベンチャーと大企業の双方に提供しています。実際には長期にわたり、継続的にマインドの共有やネットワークの構築をしていく必要があるのですが、興味深いのは、案外早い段階で大きな変化がはっきり現れるということです。
「大きな変化」とは、何なのでしょう? 誰に、どのように現れるのでしょうか?
【本田】大企業で新規事業を率いることになったリーダーです。本来ならば、この人が率先してベンチャー起業家同様の熱や価値観やスピードを体得していることが理想なのですが、実際はリーダー自身の心にまだ火がついていないことのほうが多いのです。
「自分がこの新規事業をリードするのだから頑張らなければ」と頭ではわかっていても、真の本気にはなっていない。そこでDTVSならではの原体験に基づいたストーリーの構築をしてもらうわけです。
「どうしてこの事業をやるのか? やる上で、絶対にゆずれないこと、これだけは必ず達成するぞ、と思うことは何なのか?」というような問いかけを繰り返すうち、ある日突然に火がつく。「この会社のこの部門を世界一にするまでは死ねない」とか、もうそういう水準でいいんです。その「ゆずれないもの」「ライフワークとさえ言えるもの」に自分で気づいた途端、起業家にも負けないほどの情熱が目を覚まします。
【岡田】端で見ていてもハッキリわかるくらいに変わりますよね(笑)。でも、このプロセスこそ必要不可欠。自分の中にストーリーが明確に描けたことで、腹をくくれるようになる。メンバーを巻き込むことができるようになる。ただし、大企業の場合、この後もう1つ超えなければいけない壁があるんです。
大企業ならではの壁とは、何なのですか?
【本田】組織に根付いた文化です。例えばリーダー格だけでなく、彼が率いる新規事業チーム全員がストーリーを共有して、心に火をともしたとしましょう。今まで自社が挑んだことのないイノベーションに取りかかるわけです。しかも目の色を変えて(笑)。それが、意識変革をしていない他の社員には異様なものに映るかもしれません。
その会社に長年宿ってきた価値観を打ち破るようなものこそがイノベーションになるはずなのに、他部門の社員や管理職が「当社の文化、価値観に合わない」という理由で反対勢力になってしまう危険性は十分にあるんです。だからこそDTVSの人間がコンサルタント的な機能を果たし、先読みをしながら経営陣に伝えていく。組織文化が障壁とならないような体制を準備していく。これも重要なプロセスなんです。
【岡田】ベンチャーと大企業に出会いの場を提供したり、マッチングをしたり、人材育成に関わるところまでならば、ひょっとしたら他の機関でも行ってきたかもしれません。しかし、DTVSはここまでお話しした通り、様々な可能性を考えながら、現実のイノベーションが達成されるまで継続的に多様なサポートをしています。他にはなかったアプローチだと自信をもって言えます。
大企業チームは他の3つのチーム以上に大幅なメンバー拡充を考えていると聞きました。求めている人材像について教えてください。
【本田】現在我々のチームは10名ほどで活動していますが、DTVSが発信してきた独自手法への期待が高まっているばかりでなく、すでに具体的な案件となって動き出しているものも多数あって、手がまわらなくなっているほどです。
マッチングや啓蒙、教育をサービスとして展開するだけでなく、新規事業のスタートやベンチャーとのアライアンス、M&Aなどに深く関わることで、ビジネスとして成立していますし、今後も収益を生み出す勝算が立ったことから、一気に優秀なメンバーを獲得していくことにしました。
【岡田】私たち自身が次の成長ステージへと上がるタイミングも訪れているのだと考えています。大企業とベンチャー企業との間にあった誤解や、違いの数々が今後は埋まっていくものと予想しています。
新規事業を打ち立てるたびにDTVSが人材育成に絡まなくてもいいように、大企業もベンチャーも自走できるようにするのが当面の目標ですが、それを達成できれば、今までと違った役割の中で私たちもまた成長を目指していきたい。ですから、今回参画してくれる新しいメンバーには、「自分たちがこのDTVSも変えていく」くらいの情熱を持っていてくれると嬉しいですね。
【本田】求めている人材像は2つの視点で考えています。1つはマインドマッチ。将来の自身のビジョンがはっきりしていて、ノウハウだけでなく「熱」を大企業やベンチャーに伝えていける人。自分のために何かをしたいのではなく、相手のハートに火をつけることが喜びだと思える人を望んでいます。
もう1つはスキルマッチ。私たちは多様な人と向き合います。ですから人にフォーカスしたコンサルティングやサービスを実行してきたかたや、事業会社で人材育成に関わり、その難しさを体感してきたようなかたが加わってくれたら、と思っています。