まずは、柴田様に貴社のビジネスの概要や特徴、今後の展開についてお伺いしたいと思います。柴田様の社内での役割、これまでのご経歴について教えてください。
【柴田】コンサルティング部門長として約60名のコンサルタントを統括し、コンサルティング部門の事業運営に責任を負っています。また、一人のシニア・クライアント・パートナーとして、コンサルティングの現場にも立っています。
経歴としては、新卒でPwCコンサルティング(現:IBM、現在のPwCとは別法人)に入社しました。サプライチェーンマネジメント領域のコンサルティングに約2年従事しましたが、途中で会社がIBMに買収されてシステム色が強くなり、キャリアの志向と合わなくなったため、知人の紹介で外資系コミュニケーション・コンサルティング会社のフライシュマン・ヒラードに転職しました。
フライシュマンの仕事は面白かったものの、最終の意思決定がロジックの積み上げではなく右脳的に行われるアートな世界が自分の志向とは異なり、ロジックで戦えるビジネスコンサルティングファームに再び軸足を戻すべく、コーン・フェリーの前身であるヘイグループにジュニア・コンサルタントとして入社しました。組織・人事分野は未経験でしたが、もともと人や組織の歴史に関心があったのと、まったく未知の領域だったのでどのようなことをしているのかを見てみたいと興味を持って飛び込みました。これが肌に合っていたようで、かれこれ16年働いています。
コーン・フェリーについて教えてください。
【柴田】2015年に世界最大級のエグゼクティブサーチファームであるコーン・フェリーが、組織人事コンサルティングファームのヘイグループを統合して誕生したグローバルファームです。私たちコンサルティング部門は、旧ヘイグループの流れを汲んでいます。1社の中でエグゼクティブサーチと組織人事コンサルティングという2つのビジネスラインを有したのは弊社が初めてでしたが、両ビジネスは非常に親和性が高く、シナジーを発揮できているので、最近では競合も企業統合を通じてこの体制を追随しています。
コンサルティング部門のビジネスの概要、強み・特徴について教えてください。
【柴田】コンサルティング部門では、組織・人事に関わるあらゆるテーマを取り扱います。組織・人事の領域では、コーポレートガバナンスの高度化、経営執行体制の強化、人事制度設計、リーダーシップ開発、など幅広いテーマがありますが、「組織・人事の総合系」として全てを網羅しています。他の組織人事コンサルは基本的にはその中の1テーマに専門特化するビジネスモデルを取っているので、この網羅性は他の組織人事コンサルとの差別化要因ともなっています。
また、大きく2つの強み・特徴があります。
1つは、主なクライアントが経営トップであることです。私たちは「CEOコンサルティング」と表現していますが、社長やCEOなど経営トップに対して直接コンサルティングを行っており、毎週のように経営トップとディスカッションしています。経営トップと聞くと事業戦略を中心に考えているイメージがありますが、実は彼らの抱える課題の約7割は組織・人事に起因し、事業戦略マターを超えると感じます。大企業になるほどその傾向が強く、私たちが経営トップに対して役に立てる部分は非常に大きいのです。
一般的にコンサルティングファームのクライアントというと部長クラスや役員クラスが中心ですが、私たちがここまで経営トップに食い込めているのは、エグゼクティブサーチ部門が持っている経営トップ層とのリレーションが大きく寄与しています。これはコーン・フェリーとヘイグループの統合時に期待していたシナジーであり、まさに狙い通り発揮できています。
もう1つは、長い歴史の中で培った、組織と人材に関するノウハウです。あまり知られていませんが、人事領域でデファクト・スタンダードとなっている「コンピテンシー」「EQ」「モチベーション」といった概念はコーン・フェリーが開発したものです。他ファームでも人事制度設計など業務的なツールは持っていますが、組織・人材という抽象度の高い領域でコーン・フェリーほど強力なノウハウを持っているファームは他にはなく、この点は大きな強みと言えます。こうしたノウハウは、学究的な研究の積み重ねに基づいて生み出しています。
旧ヘイグループでは1900年代の半ばに行動心理学の世界的な権威であるハーバード大学のデイビッド・マクレランド教授と共同研究をしていましたし、コーン・フェリーとなってからはグローバルな研究調査研究機関Korn Ferry Instituteを組織して、様々な大学と共同研究を行いながら調査・分析・ツール開発を行っています。最近も、新たに人材の成長ポテンシャルを診断するツールを開発しました。環境変化の激しい世の中で組織を運営できる人材になる可能性を秘めているかを、今現在の能力ではなく、将来の成長ポテンシャルから測定します。抽象度の高い「ポテンシャル」の測定には企業からの期待値は非常に高く、将来の社長候補を選定するCEOサクセッションでも有効なので、非常に多くの企業に採用いただいています。
こうしたコンサルティングサービスを提供している貴社の組織運営を教えてください。
【柴田】「CEOコンサルティング」を強化するという我々のビジネスモデルと紐づけており、個人を特定の専門領域に縛ることはせず、基本的にはすべての領域をカバーできるようになっていただきます。経営トップから相談を受けた時に「専門外なので分かりません」では困るためです。
私たちの組織は大きくパートナークラス、プロジェクトマネジャークラス、コンサルタントクラスの3階層に分かれていますが、最初のコンサルタントクラスの間は本当になんでもやってもらっています。ただ、あるテーマで十分に経験を積んだと判断してから、別のテーマの案件にアサインするなど、経験が散漫になってどれも中途半端ということにならないようアサインメントには非常に気を遣っています。
とはいえ、コンサルタントとしての市場価値を高めるには、いずれどこか一つはエッジの効いた専門領域は持っている必要があります。そのため、プロジェクトマネジャークラスになったタイミングでプラクティスに所属します。「Organization Strategy」(組織・人事戦略)、「Reward & Benefit」(報酬・福利厚生)、「Assessment & Succession」(人材アセスメントとサクセッション)の3つのプラクティスがあります。
こうした経験を経て、幅広い知見と特定領域での高い専門性を兼ね備えた「T字型人材」になることが出来ます。
もう一点補足すると、経営トップとのディスカッションの場には、できる限りプロジェクトメンバー全員が出席します。一般的にコンサルティングファームでは、経営トップとの会議に参加できるのはパートナーのみというケースが多い気がしますが、経営トップが何に課題を感じるのかという経営者目線は間近で見ないと分かりません。若い内から経営トップを間近に見ることで、コンサルタントの視座を上げて大きく成長させることが出来ます。
クライアントはどういった企業が多いのでしょうか。
【柴田】私たちのクライアントは、多くが業界上位の日本企業です。そして大半のクライアントは、グローバル展開をしています。そうした企業が現在のポジションにあるのはこれまでも環境変化に合わせて常に変革し続けた結果であり、そうした企業の経営トップの目線は高く、変革への強い意欲を持っています。
また、日本企業のグローバル展開を支援するプロジェクト(日本オフィスが中心となって海外オフィスと連携するプロジェクト)、海外グローバル企業の支援(海外オフィスが中心で日本オフィスが支援するプロジェクト)といった、グローバル案件は全体の3~4割程になります。
組織戦略は事業戦略そのものと密接な関係にありますが、事業戦略とはどのように関わるのでしょうか。
【柴田】私たちは事業戦略を実現させるための組織・人事戦略を考えるのが仕事であり、事業戦略は与えられた前提となります。そのため事業戦略が決まらなければ組織と人事の議論は出来ないのですが、実際には本来決まっているべき事業戦略が決まっていないケースが多々見受けられます。例えば、オーガニック成長かインオーガニック成長かのどちらの方針を取るかが定まっていなければ、最適な取締役会の構成を導き出すことはできません。私たちは事業戦略に対するコンサルティングは行いませんが、組織を検討する上で定めるべき事業戦略について問題提起を行うこともあります。
昨今クライアントニーズが特に高いテーマはありますか。
【柴田】コーポレートガバナンスの高度化です。今年6月のコーポレートガバナンス・コードの改訂を受けて、日本全体で機運が高まっています。今回の改訂では特にガバナンスの実効性強化が求められることとなりましたが、多くの日本企業では「監督」と「執行」が分離できていないのが実情です。コーポレートガバナンスの高度化に際しては監督体制と執行体制のそれぞれの高度化をセットで検討しなければなりません。
欧米のグローバル企業では取締役会は非常に戦略的に構成されていますが、日本では全くそうではありません。監督機能を担う社外取締役はただ執行側が決めたことを追認するだけと形骸化していたり、執行機能を担う執行役員は各人の役割や責任が明確になっていないまま人数だけが多い、というケースが見られます。海外から見たらあり得ない状況で、今後、外国人投資家の存在感が高まる中で、彼らに対して十分な説明責任が果たせません。
こうした状況を脱却するために私たちは、取締役会の構成、取締役に求められるスキルセットを検討する取締役会改革、経営執行体制を見直し、各役員の役割と要件を再定義する執行体制改革のプロジェクトを数多く手掛けています。取締役と執行役員の選定についても、社内の人材に対してはアセスメントを実施したり、エグゼクティブサーチ部門と連携して社外の人材を探したりとご支援しています。
今回の改訂により、一定数の社外取締役が求められるようになりましたが、日本では社外取締役の人材マーケットはまだ未成熟で、適格な人材の絶対数は多くありません。質が伴わないまま人数だけを増やせば経営の劣化を引き起こす恐れがあるため、危機感を持っています。現在、グロービス社と連携しながら、将来の社外取締役候補の育成とプ―ル化に取り組んでいます。
経営コンサルティング業界では、DXやSDGsがトレンドになっています。組織人事コンサルティングではどのような影響がありますか。
【柴田】DXやSDGsはあくまで一論点に過ぎません。最上位の議論は将来の人材ポートフォリオ構成で、その内数としてこれまでは出てこなかったDX、SDGsが論点として登場してくるといった具合です。将来の計画を見据えた時に、DX人材は全社で何名必要なのか、そもそもどういったDX人材が必要なのかの本質的な議論を行います。またSDGsはガバナンスの一論点でもあり、従来の株主至上主義から、どのように組織へSDGsの視点を取り入れていくかの議論もします。
コーン・フェリーの今後の展開を教えてください。
【柴田】一1つは、「CEOコンサルティング」のさらなる強化です。今後、日本企業が世界で戦っていくために、経営の高度化は避けては通れない議論で、非常に多くのご相談をいただくようになりました。しかし現状の私たちの体制でご対応できる企業には限りがあり、お断りせざるを得ない場面も出てきています。監督と執行の高度化の両方をカバーできるファームは他にはなく、コーン・フェリーはユニークなポジションにあります。人員の増強と体制強化を通じて、その強みを盤石なものにしていきたいというのが今後の大きな方向性です。
またグローバルファームのナレッジを活かして、グローバルでのトレンドをより日本に浸透させていきたいと思っています。今グローバルで起こっている潮流は、いずれ日本にもやってきます。例えば、現在グローバルでトレンドとなっている「ダイバーシティー&インクルージョン」。日本ではダイバーシティーと言えば、まだまだ女性活用や外国人登用にとどまっていますが、本来は価値観や能力といったあらゆる属性から人材を捉えて、その会社に最適な構成を検討しなければならず、ただ人数を増やせばよい訳ではありません。現在、私たちの海外オフィスでは、ダイバーシティー&インクルージョンのプロジェクトを数多く手掛けており、このナレッジを持って日本企業に対しても浸透させていきたいと思います。