プロ経営者インタビュー 西口 一希 氏 ロクシタンジャポン株式会社 代表取締役社長 (2015.12)

プロ経営者インタビュー

西口 一希 氏

[9]他に経営者に必要な資質や能力などありますか?

先ほどお話をしたように、私はP&Gでの評価で自分の非力さ、不完全さを思い知らされ、転機としていくことができました。透明性をもって人と接し、多少は(笑)まわりの声に耳を傾けることができるようになりました。もしも同様の経験がしたいのであれば、周囲の仕事関係者にたのんで無記名で自分の評価をしてもらったりする手だてもあるでしょう。そうして自分の不完全さを客観的に捉えることは成長にとって必要なプロセスだと思います。

また、経営を本気でしたいと思うのならば、その原動力は「人と組織の成長に貢献したい」という気持ちしかあり得ない、と私は信じています。お金をたくさん稼ぎたい、とか、自己のブランドを確立したい、といった思いをモチベーションにして成長していくことは、決して悪いことではありません。

でも、そのように自分に向けた思いだけでは経営の仕事は務まりませんし、醍醐味も感じないでしょう。組織や他者の成長を、どこまで手助けできるか、というのが今も私の原動力ですし、「まだまだ全然足りていない」という気持ちでいます。だからこそ、前向きな気持ちでいられるんです。

[10]これらのスキルなどをどこで手に入れたのでしょうか?

P&G時代に、PL経験を含めて広い意味での「成長する機会」を得ました。ロート製薬時代に、「商売の原点」「柔軟性」「お客様に喜んでもらうことの大きさ」を学びました。

[11]業界のプロとしての知見はいかがでしょう? やはり必要だとお考えですか?

その業界固有の知見というものを持っていた方が参入して行きやすいし、出だしからスムーズに動けると思ってはいます。ただし、それも善し悪し。私の場合、ロクシタンとまったく同じ領域にいたことがあるわけではないのですが、非常に近いところで知見を積み重ねてきました。

ですから、気をつけていないと無意識に「業界の常識」のようなものに縛られてしまう恐れがあります。変革を実行したり、課題を乗り越えていく上で、むしろ知見が邪魔するケースがあると自分に言い聞かせています。

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また私は今、意識的にデジタル関連の業界のかたがたと親交を深めています。例えば写真の世界で、フィルムというそれまで不可欠だった商品とそれを提供してきた産業が、デジタル技術の浸透によって、あっという間に駆逐された事実を私たち世代は目の当たりにしました。同様の出来事が急速に、様々な産業で起きていきます。

デジタル技術の進化は、そうしてビジネスの常識を塗り替えていくのですから、未来を見つめているこれらの世界の人たちから多くのことを学ばせてもらっているんです。デジタルの技術や情報ばかりが素晴らしいのではなく、その専門家である彼らが備えている「過去にとらわれない姿勢」が、たくさんのことを教えてくれるんです。

[12]過去に体験した最大の試練やストレッチされたご経験について教えてください

私のキャリアの大部分は、失敗と試練で構築したもの。そういっても過言ではありません。中でも忘れられないのが、P&G時代にヘアケアの新ブランドを任された時です。強気のブランディングを断行した結果、大きなダメージを会社に与えてしまいました。

その経験から「強引に一人で突っ走れば、結果も人もついてくる」という発想の間違いに気づいたんです。人の話に耳を傾け、チームの皆が納得して動けるようにしなければうまくいかない、と考えるきっかけになりました。

[13]経営者を志す者には、どのような努力や学びが必要でしょうか?

永遠に「自分は必ず成長していける」と、心から信じることが大切です。そしてもう1つ大切なのは「過去で勝負をしない」という姿勢。先ほどデジタル業界のかたがたから学んでいる、という話をしましたけれども、やはりこういう世界で活躍をしている人は、過去の常識や手法ばかりでなく、過去に自分が手に入れた実績さえも、見事なくらいに捨てていきます。

デジタル領域に限らず、ベンチャー企業を成長させている人たちとも親交を持つようにしているのですが、この人たちもまた躊躇なく過去を捨て去っていきます。経営者もまた未来を創造していく仕事ですから、過去のセオリーやノウハウ、成果などに縛られることなく学んでいき、努力していくべきです。

[14]今までに影響を受けた先輩や師匠といえるかたはいらっしゃいますか?

2人います。1人は現在P&Gでアジア担当のシニアエグゼクティブオフィサー兼プレジデントを務めている桐山一憲さん。私が在籍していた頃は、営業本部の責任者をされていました。人間的にも、仕事的にも、組織の作り手としても、とにかく素晴らしいかただったんです。そういう人の下で仕事と向き合えたことが、私を大人にしてくれました。

もう1人はロート製薬の山田会長です。冒頭でも言いましたが、この方の商売人としての感性は、圧倒的でした。そして、直感力の凄味の裏で、非常な勉強量をこなしている姿を見させてももらいました。柔軟性や感性だけでなく、学ぶことの重大さを教えてくれたかたです。

[15]キャリアの成功とは「計画的に努力して成し遂げるもの」でしょうか? それとも、「偶然や人との出会いなど、運が影響するもの」だとお思いですか?

「偶然なんてない。すべては必然」。そう思って生きるべきです。人生は一度だけなのですから、「待っていれば幸運が舞い込む」などと考えていてはもったいないです。実際、どんな仕事をしようが、1つひとつの行動や発言には必ず意味があります。そう考えて言動をしていく者に、人は集まってくるし、人が集まってくるところに、成功のチャンスも訪れる。やはり必然なんです。

[16]なぜ起業ではなかったのでしょうか?

大学時代に家庭教師の派遣事業で起業することを考えたこともありましたが、経営という仕事の煩雑さやチームや人のマネージメントに自信を持てなかったこともあって断念しました。

その後、P&Gに入社後は仕事の面白さと大変さに没頭していましたが、1990年代半ばにインターネットの普及が急速に進んだ際には、ネット上でクリエイターとクライアントをマッチングしていくようなサービスを考えたりもしました。P&Gで任せてもらえるプロジェクトが起業を超えるほどの魅力を持っていたこともあって、実現に向けては動きませんでした。

[17]特別な信条やモットー、哲学などをお持ちですか?

過去の名言などを座右の銘にしてはいませんが、「成長する意欲さえあれば、人は永遠に成長できる」という信念・信条をずっと胸に刻んで行動しています。私の理想はこの世を去る直前に成長曲線のピークを迎えることなんです。

[18]経営者となった今、何を成し遂げたいとお考えでしょうか?

私という存在がなくても成長していけるような組織にすること。それが自分の使命だと考えています。

[19]現在のポジションを去る時、どういう経営者として記憶されたいですか?

「西口が社長だった時代に、自分はビジネスパーソンとして成長できたな」と、社員の皆が思い浮かべてくれたなら嬉しいです。

[20]20代、30代のビジネスパーソンにメッセージをお願いします

ここまでにお話してきたことのまとめのようになりますが、3つのメッセージを送りたいと思います。
●どんなに小規模な事業でもいいから、売上にも利益にもコミットする立場に就き、そこで結果を出していってほしい。
●目指すべきロールモデルをできる限り早く見つけて、成長の目標にしてほしい。
●ビジネスにかかわるすべてを「自分の責任」だと捉え、仕事や人やチームと向き合ってほしい。

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