プロ経営者インタビュー 足立 光 氏 ヘンケルジャパン株式会社 ヘンケル ビューティーケア コーポレート・ヴァイス・プレジデント/北東・東南アジア統括(リテール事業・プロフェッショナル事業)ゼネラル・マネージャー (2013.7)

プロ経営者インタビュー

足立 光 氏

[7]いつ「経営者になろう」と思われましたか?

P&Gを退職する頃ですね。冒頭の質問でお答えしたように、当時の私はとにかく上を目指していました。しかし、ブランドマネージャーという一定のポジションを得てからわかったのが、「本当にやりたいことをするには、もっと上に行かないといけない」ということ。外資系ということもあり、30代の経営者が身近にいた。それならば、自分が経営者となるしかない。そして、そのためには今まで以上の成長を自分で獲得していくしかない。そう考えたからコンサルティングの世界に足を踏み入れたのです。

[8]経営者に必要なメンタリティ、スキル、経験とは何でしょう?

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メンタリティについては、私流の言葉でいうと「気合い」です。スマートに言えば「コミットメント」ということになるでしょうけれども、とにかく経営者の仕事は数字がすべて。どんなにカリスマ性を備え、どんなに頭が良くて、どんなに男前だったとしても、とにかく数字を作れていなければ「ただの人」です。多くの人が想像している以上に厳しい立場。打たれ強く、何度でも立ち上がるだけの「気合い」が問われると考えています。

スキルについては、「どうとでもなる」と答えておきます。もちろん、経営状態を見て実情を知るための最低限の知識やスキルは必須になりますが、「このスキルがないと絶対にダメ」というような特定のものはないし、必要性を感じるものを見つけたとしても、それはその場で吸収していけばいいのだと思います。

経験については、やはりある程度の修羅場をくぐっておくことが重要だと思います。先ほども言ったように、経営者は孤独ですし、逃げ場のない立場です。何があっても動じないメンタリティを手に入れるためにも、目の前に修羅場があった時は逃げずに立ち向かう経験をしておくべきだと考えます。私自身、P&G時代には20代でパンパースを売っていました。子どもを持ったこともない若い男には楽な仕事ではありませんでしたが、当時の経験から強さを手に入れたと思っています。

[9]他に経営者に必要な資質や能力などありますか?

「能力」とは少し違う次元かもしれませんが、経営者は人が好きでなければ辛いと思います。最終的にいつも結果責任を問われるのが経営者ではあるけれども、同時に経営者は自分自身では何もしない人でもある。どんな事業のどのような仕事であったとしても、経営者の仕事は判断して、意思決定して、ディレクションをすること。そこから先は、それぞれの担当者に実行してもらい、結果を出してもらうしかないんです。言ってみれば社長業とは、人とつきあうサービス業ですから、人間を好きになれる資質を持っていないと、ますます孤独の度合いを強めてしまう。

ただし、私は「すべての人と実際に仲良くなる必要はない」、とも考えています。「すべての人に『仲良くなった』と思ってもらう」ことが大事だと思うのです。

[10]これらのスキルなどをどこで手に入れたのでしょうか?

高校時代や大学時代に得たファンダメンタルズも作用していると思いますし、社会人になってからのさまざまな経験で備わっていったのではないかと考えています。

[11]業界のプロとしての知見はいかがでしょう? やはり必要だとお考えですか?

業種の知見や人脈などは、本質的にはあまり必要ではないと思います。理由は3つ。

(1)そもそも経営とはユニバーサルなものであり、業界が違ってもそんなに本質は変わらない。 だからこそ、他業界から来た人が大活躍している実例もたくさんある。

(2)もしも経営戦略の立案等に業界でのリアルな知見が必要ならば、多くのコンサルタントはその基準に合わない。特定業界に詳しいコンサルタントもいるけれど、やはり業界内にいる人間の方が詳しい。そうであるにもかかわらず、有能なコンサルタントは初めての業界の案件でも、1ヵ月もあれば大枠を理解して、戦略を策定している。つまり、業界の知見はあらかじめどうしても用意できていなければいけないような存在ではない。その気になれば数ヵ月で手に入るもの、ということ。

(3)実は業界のことを知っている人ほど、業界の常識にとらわれやすい傾向がある。もし大きな変革を起こすなら、業界のしがらみや常識にとらわれない人の方が適任となる。

以上の3つが「あまり必要ではない」理由です。もちろん、業界のことを以前からよく知っていて、業界内にも人脈が形成できている人物がもしも経営者の立場になったなら、そうではない人物よりも早いタイミングから、実行力を示すことは可能でしょう。

しかし、それはあくまでも「現状維持路線、あるいは現状の延長線上での発展」を目指す場合にのみ有効です。企業がプロ経営者をわざわざ外部から呼んでくるようなケースは、多くの場合、この路線ではありません。3つめの理由で挙げたような「常識にとらわれない変革」を期待している場合の方がずっと多い。そうなれば、業界知見の必要性は決して高いものではなくなるわけです。

[12]過去に体験した最大の試練やストレッチされたご経験について教えてください。

私の人生は試練ばかりですよ(笑)。あまのじゃくな性格ですし、「自分のことは自分で決める」人間ですし、好んで成長途上の組織にばかり飛び込んでいったせいでもあるでしょう。なるべくしてなった、と言えるかもしれません。毎日が試練でした。

たとえばP&G時代に過去に例のない「日本人が韓国へ赴任」という経験をしました。この国で日本人が認められるには、並々ならぬ努力が必要です。それでも自分から「やります」と言いました。コンサルタントになってからも、すぐに試練の連続が来ました。消費財メーカーのブランドマネージャーをしていただけの人間が、まったく知らない業界の企業の経営者と向き合うわけです。「わかりません」なんて言葉は通じません。ひたすら毎晩勉強を繰り返しました。

そしてヘンケルは先にも申し上げた通り、赤字続きの状態でしたから、当然、試練しかありません。それでも、ここまで自分から望んで試練と向き合ったおかげで、すべてがストレッチにつながったと自負しています。

何が大きかったかと言えば、やはり気合い。試練をむしろ楽しんでしまうような性質が備わっていたから、病んでしまうこともなくここまでやってこれたのだと思っています。

[13]経営者を志す者には、どのような努力や学びが必要でしょうか?

ここでも3つ答えを挙げたいと思います。

(1)目の前の仕事で勝て。負けるな。勝利を続けることが経営者への近道。大局的な展望など二の次でいい。

(2)いろいろな人と会え。同じ領域の限られた人間とばかり会っていては視野は狭くなるばかり。異なる世界の人と話すことで得られるインスピレーションというのがある。

(3)本を読め。いろいろな人と会うことには時間的な制約がつく。時間を選ばずにインプットできるのが本。そこから頭の中でシミュレーションする習慣が身につけば、アウトプットにもつながっていく。

これが私の推奨したい3つの努力です。どれも難しいことではないはずです。今すぐにでもできること。それをするかしないかで違いは出てくる。そう考えています。

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