デザインファームやスタートアップから事業会社へのキャリアチェンジ
まず、これまでのキャリアと現在の仕事内容について伺えますか。
【岩下】ベイン&カンパニーという戦略コンサルティングファームでコンサルタントとして働いた後、音楽ストリーミングサービス「Spotify」初のアジア展開として日本支社の立ち上げに携わりました。そしてMBA留学を経験。その後デザインファームIDEOで7年間新規事業創造に携わり、最後の3年間はデザインディレクターを務めました。2024年1月にユニ・チャームへ入り、事業開発を手掛けています。現在、領域もビジネスモデルも異なる複数の事業を同時並行でインキュベーションしているところです。
【松薗】私は新卒でリクルートに入り、デジタルマーケティングやUXデザイン、プロダクトマネジメントなどの経験を重ねました。次第にUXリサーチの仕事にやりがいを感じるようになり、UXリサーチャーとしてメルペイへ転職し、新規事業の立ち上げやグロースを担当してきました。そして2024年8月からユニ・チャームでストラテジックデザイナーとしてホルモンと体調の関係がわかる新しい生理管理アプリ「ソフィBe」の体験設計を担当しています。
【下村】キャリアのスタートは、チームラボでエキシビションアートカタリストとして、プロジェクションマッピングなどを手掛けていました。その後リクルートのUXデザインユニットに6年間在籍した後、フリーランスとして活動。2024年8月から、MDX本部で「ソフィBe」のデザインチームをリードしています。チームのデザイナーが制作したデザインのレビューをしたり、自ら手を動かしてプロジェクトを進めたりしています。
ユニ・チャームへの入社を決めたのはどのような理由からですか。
【岩下】ユニ・チャームを選んだのは、MDX本部の仕事がやりたいことと自分のスキルにこれ以上ないほどフィットしていたからです。前職でもヘルスケアやウェルビーイング関連の事業開発をしていたため、フェミニンケアの領域に高い関心があり、この分野で新しい事業を生み出したいという気持ちが強かったのです。MDX本部の事業開発はビジネスとデザインが融合した、ユーザー探索✕事業起点の両方を求められる稀有な組織です。その点に強く惹かれました。
【松薗】デジタル領域でキャリアを積んできて、次はリアルな商品を扱っているメーカーでいままでと違うビジネスを手掛けたいという思いが強くなっていました。また、自分自身が当事者である領域に携わっていきたいと考えていたこともあり、女性の一生に寄り添うサービス開発に取り組めるユニ・チャームはその点も理想に合致していました。
【下村】ユニ・チャームを選んだ理由は大きく2つあります。1つはリクルートで働く中で、人の「不」の解決に興味を持った結果、女性の「不」の解決や手助けに興味をもったこと。もう1つは実態のある商品とアプリの体験設計がやりたいと思ったことです。これまで働いてきたIT業界はどうしても男性の方が多く、女性が体調不良になっても休みづらいという状況がありました。そうした状況を少しでも改善したいと考えています。
フェミニンケア領域で新しい事業開発や顧客体験設計を手掛ける
入社後に感じた印象やギャップを教えてください。
【岩下】プロフェッショナルファームとは仕事の進め方が大きく違うことです。プロフェッショナルファームでは、アイデアの根拠や論理を積み上げ、正論を伝えることを重視していました。しかしいま手掛けているのは、会社にとって知見もケイパビリティも全くない飛び地の事業です。他部署とはいえ同じ会社の仲間なので、より丁寧に説明して協力を仰ぐ必要があります。たとえば11月にリリースしたばかりの金融領域の事業では新たな社内規程の整備やガバナンスのプロセス、法務や知財部門等との緻密な連携が不可欠です。こうした業務はその部署の仕事を増やすことにもなりますし、知見のない領域だと戸惑いもあるはずです。この1年社内の各部署と連携しながら事業開発を進めてこられたのは、自分にとって大きな経験だと思います。
◆ ユニ・チャーム株式会社 ニュースリリース
「ソフィ おまもり保険 女性向け医療サポート」スタート
~生理管理アプリ『ソフィBe』で取り扱いを開始~
【松薗】これまで積み上げてきた専門性を一旦手放し、新しいチャレンジをしたいと思ってキャリアチェンジしたので、想像以上に職域の垣根を超えた仕事を担当できて嬉しく思っています。前職ではUXリサーチが中心でしたが、いまは要件定義などのプロダクトマネジメントに染み出すこともありますし、体験設計やUXライティングのレビューなど、自分で責任をもって意思決定する機会も増えました。念願かなって、仕事の幅を広げることができてうれしいですね。
【下村】ユニ・チャームはクラシカルな企業という印象がありましたが、実際に働いてみると、他部署に比べてとても柔軟に組織が設計されていることに驚きました。ただ、同じプロジェクトを担当しているメンバー同士でしっかり合意を取りながら物事を進める必要があり、そこは丁寧に進めなければならないと感じています。
いま、どのようなプロジェクトを手掛けていますか。
【岩下】私のチームがインキュベーションしている一つの事業として、2024年11月26日にリリースした「ソフィ おまもり保険 女性向け医療サポート」があります。女性が人生を歩む中で、選択肢を狭める「お金の不」を解消させる第一歩として、ユニ・チャームが保険代理店として、女性特有の疾患や不妊治療を含む病気・ケガを保障する保険商品をユーザーへ紹介します。
事業開発チームでは、本事業のスキーム策定、提携先の開拓〜締結、顧客体験の設計、オペレーション構築、経営層とのコミュニケーション・承認、とあらゆる視点から事業立ち上げを推進しています
【松薗】「ソフィBe」は2024年7月にリリースしたばかりなので、定期的にユーザー調査を行って利用実態の理解を深めながら、アジャイルにプロダクト改善を行う仕組みをつくっています。また、今後の機能拡張に向けて、新領域を探索するプロジェクトも担当しています。
【下村】私はデザインチームの体制づくりに力を入れています。理由は、まずは体制を整えることでデザインの質やスピードアップなど全体に良い影響が与えられると考えているからです。チームは私以外全員業務委託なので、最初はメンバーとのコミュニケーションに重点を置きました。それぞれのスキルや仕事の状況を把握したうえで、属人化した仕事の進め方をあらためたり、ミーティングを減らしレビュー体制を整えたりするなどデザイナーが能力を発揮しやすい環境を整えているところです。
いまはリリース後のフェーズなのでホーム画面のリニューアルという不確実性が高くユーザーへの影響も大きい改修を行っています。
社長直下の部署で、経営陣とディスカッションしながら事業を開発
入社されてから経験した印象的なプロジェクトやご苦労を教えてください
【岩下】いま最も力を入れているのは保険代理店事業の運営です。アプリに保険商品を組み込み、ユーザーに最適なソリューションを提供するという新しい試みです。このプロジェクトは、魅力的でわかりやすいユーザーファーストな顧客体験の設計と、厳重な法令遵守をバランスさせる必要があり、非常にチャレンジングな仕事でした。この事業はユーザーにとって大きな価値を提供できると信じています。
これまで生理用品や介護ケア製品などを手掛けてきたユニ・チャームにとって、保険は未知の領域です。「今年1年、役員の前で一番プレゼンしている」と言われるくらい、新しいことに取り組んでいる手応えがあります。
【松薗】MDX本部は他部署から異動してきたメンバーも多いですし、専門性やバックグラウンドの異なる方もたくさんいます。例えば、これまで生理用品やおむつなどの製品を開発していたメンバーが一緒にアプリの企画・開発をしていたりします。そのため、これまでデジタル領域ではあたりまえに使ってきた用語も、多様なメンバーに伝わるように変えていく必要があります。しかも、サービスをリリースしたばかりで、プロダクトや開発のスタイルもまだ改善すべきところがたくさんあります。これまでの経緯やどういうやり方をしてきたのかを学びつつ、信頼を重ねながら一緒にやり方を変えていくようにしています。
【下村】苦労しているのは、制作体制の改善です。デザインチームはどうしても要件定義と開発の間に挟まれやすい特徴があります。要件定義の工程が伸びればデザインの工数を短縮せざるを得ませんし、要件が固まらなければデザイナーのアイドリングタイムができてしまいます。コントロールが難しい部分もありますが、デザインチームだけで完結する小さなデザインプロジェクトを行ったり、自由な発想でクリエイティビティを発揮してもらう「自由研究」の時間をつくったりと、モチベーションを保てる工夫をしています。
MDX本部で働くやりがいや面白さは何ですか?
【岩下】事業開発という立場のため、直接ユーザーの声を聞いて常に事業アイデアを進化させていけることです。先日、あるユーザーが「心身の不調を全部なくしたいわけではなく、いつ・なぜ不調が起こるのか、その時に自分がどうすれば良いのかわかることが安心と自信につながる」というソフィBeで目指している価値提供をそのまま言語化してくれて、とても感動しました。
自分たちの目指す方向性が間違っていないことが確認でき、またそのインタビューを通じてインキュベーションしている別の事業の新たな体験創造のヒントも得られました。
この規模の事業会社で新規事業を立ち上げる醍醐味は、投下できるリソースが桁違いだということです。資金面のキャパシティも大きいですし、アライアンス先の興味関心もとても強いのです。新規事業を複数同時に進められて、しかも経営陣と直接やりとりしながら進められていることに、大きなやりがいを感じています。
【松薗】やはりデジタルと商品を融合した体験設計にチャレンジできるのはメーカーならではですね。先日、四国の工場見学に行かせてもらったのですが、モノづくりの現場を知ることができて感動しました。ユニ・チャームが育んできたブランドや商品を活かしつつ、新しい体験を考えられるのは面白いです。
【下村】それぞれのデザイナーが楽しそうに仕事をしているのを見るのが、とてもうれしいですね。デザイナーは、モチベーションが作業スピードに現れやすいのです。月に1度デザインチーム全体でKPT法による業務の振り返りを行い、「K(Keep)」の項目に「楽しかった」と書いてある内容を注目するようにしています。「グラフィカルな業務が楽しかった」「システム設計が好き」などメンバーによって興味関心はさまざまですが、できるだけ楽しく仕事をしてもらえるようアサインを調整しています。
ユニ・チャームには「暴れる余地」がある。新しい事業や体験を提案してほしい
あえて言うなら、ユニ・チャームのどのような点を改善してほしいと思いますか。
【岩下】Slackやnotionなどを使って仕事を進められる点は、とても快適です。いっぽうでセキュリティを担保するためとはいえ、細かい部分で柔軟な対応がなされていないため、小さな非効率が積み上がっている感覚があります。使用しているソフトウェアがクラシカルなところも気になりますね(笑)。作業効率やクリエイティビティの向上のために旧来のルールやソフトウェアを見直していきたいなと思っています。
ただ、MDX本部には中途入社者の方が多いこともあってカルチャーとしてはベンチャーシップが高いと感じます。やりたいことをすぐ形にしたり、前向きな改善案を積極的に発信したりできる雰囲気です。服装は自由ですし、オフィスはフリーアドレスで出社も週に3回ほどです。
【松薗】社内にデザインの価値や役割を十分伝えきれていないように感じます。MDX本部のようにまだ新しくカオスな組織こそ、デザインによってひとつの方向性を示し、前に進める力を発揮できると考えています。
下村さんには、デザインの価値や役割をもっと伝えるべく、縦横無尽に「暴れて」ほしいですね(笑)。
【下村】本来、デザイナーが要件定義などプロジェクトの初期から入ることでブランドの価値を伝えたり、よりユーザーに響くデザインを制作できたりするのではないかと思います。最近デザイナーが要件定義からプロジェクトに参加するようフローを変えたのですが、デザイナーがユーザーや要件を深く理解していないと、求めるデザインとずれたものができあがってしまいます。そこは私が今のポジションにいるからこそ社内に課題を伝えられるとも思うので、MDX本部のミーティングや他部署とのミーティングでも積極的に働きかけ、意見を伝えるようにしています。
今後挑戦したいことや入社希望者へのメッセージを教えてください。
【岩下】これからも新しい事業やサービスを次々とリリースしたいと考えています。入社希望者には「意志があれば自由に挑戦できる環境がある」と伝えたいですね。とてもオープンなカルチャーなので、やりたいことがある人にとっては、とても働きやすい環境だと思います。一方、指示待ちやタスクを定義してほしい人にとっては不確実性が高すぎてやりにくいのではないでしょうか。
【松薗】「商品」を開発したいという思いがあるので、これからは生理用品など製品そのものの開発にも携わってみたいですね。スタートアップやテックカンパニー、デザインファームからの転職を検討している方には「異業種からのキャリアチェンジでも思ったより大丈夫」と伝えたいですね。
【下村】デザイナーの裁量をもっとあげていきたいと思っています。今後はデザイナーだけで完結できる仕事をより一層増やしていくつもりです。個人的には、商品にまつわるデザインや設計にも挑戦したいです。入社希望者には「ユニ・チャームには思い切り暴れる余地がたくさんある」というメッセージを送りたいです。自由に「暴れて」、ユニ・チャームに新しい事業やサービス、カルチャーをもたらせたらいいなと思っています。