変化を設計する仕事──SCM責任者の役割とキャリア戦略 (2026.01.06)

人手不足、法改正、環境対応──小売のSCMは今、大きな転換期にあります。責任者に求められる視座とスキルを整理しました。変化を設計できる人材こそ、次の時代のリーダーです。本稿では、SCM責任者に必要な役割、直面する課題、そしてキャリア形成に欠かせないスキルを整理していきます。

1. SCMの役割──「モノの流れ」を経営の中心に

小売のSCM(サプライチェーン・マネジメント)は、商品を仕入れ、保管し、必要な時に必要な量だけを、適切なコストで店舗・ECへ届ける一連の流れを設計・運用する機能です。重要なのは、単なる物流効率化ではなく、売上・利益・在庫資金・顧客体験に直結する「経営基盤」として機能させる視点です。
在庫が過剰になれば資金を圧迫し、欠品が続けば顧客離れを招きます。配送が遅れればレビューは下がり、ブランド信頼にも影響します。SCM責任者に求められるのは、こうした要素を共通の指標で捉え、統合的に設計して運用へ落とす力です。

●可視化
在庫回転、欠品率、納期遵守、配送回数、積載、荷待ち時間、コスト/注文、排出量などを同一フレームで見える化。

●設計
需要と供給のバランス(S&OP)、在庫政策、納品頻度、配送設計、倉庫運用までの一気通貫設計。

●意思決定
投資の優先順位を費用対効果で説明し、短期改善と中期ロードマップを両立。

●定着
標準作業・定例レビュー・委託先KPIを整備し、属人的運用から"毎日同じ品質で動く仕組み"へ。

2. 経営インパクト──利益・顧客満足・ブランドを同時に動かす

SCMは企業の「経営基盤」として、利益・顧客満足・ブランドの三側面を同時に設計・強化します。

●利益
納品頻度の適正化、積載率の改善、荷待ち時間の削減、再配達の抑制は、配送コスト/注文や在庫資金の健全化に直結します。無駄時間や空荷走行を減らし、作業を平準化できるかが、粗利の「目には見えにくい差」を生みます。コストダウンは単発交渉ではなく、運用設計の変更で実現するのが王道です。

●顧客満足
欠品抑制と期日遵守は当たり前。さらに「受け取りやすさ」(置き配、ロッカー活用、時間指定の精度等)の設計は、再配達削減と体験向上を同時に実現します。過剰在庫と欠品の両方を避ける「程よい供給」を、日次更新の需要読み+補充ルールで運用することが、体験を損なわない在庫最適化のコアです。

●ブランド
安定配送と丁寧な梱包は基本品質。加えて、排出量の可視化・削減、再利用包装材の採用などの環境施策は「選ばれる条件」へ。スピードを落とさず環境負荷を下げる意思決定は、規制対応力と企業イメージの両面で競争力をもたらします。
三側面の成果は、包括的な指標体系(在庫回転/欠品/納期/配送回数/積載/荷待ち/コスト/排出量)で管理し、施策→効果→全社展開の順で語れるかが責任者の評価軸です。

3. 2025年の課題──人手・法改正・コスト・DX遅れ

●人手と時間の制約
ドライバーの時間外労働上限の定着により、運べる量・距離に前提制約が生まれました。ボトルネックは移動時間だけでなく、荷待ち・荷役、積み込み前後の非効率にもあります。待ち時間の指標化、納品時間帯の平準化、予約枠運用の徹底で「走る前後のムダ」を詰めることが必須です。

●法改正で荷主(小売)側の責任が明確化
2025年は、荷待ち・荷役の削減、積載改善、契約の書面化が強く求められる時期でした。これは運送会社だけの課題ではなく、荷主側の改善責任の明確化を意味します。責任者は、共同配送や長距離輸送を鉄道や船に切り替える取り組み(モーダルシフト)の検討、費用項目の透明化、納品ルールの標準化を進め、法対応を「守るためのコスト」で終わらせず、「経営基盤の強化」へ転換することが重要です。
具体的には、契約の明文化をテコに委託先評価の刷新・価格転嫁ルール整備へつなげ、収益構造の健全化を狙います。

●小口化・再配達・コスト上昇への対応
EC伸長で小口・多頻度配送が増加。再配達高止まりは品質と人時負荷を直撃。燃料・人件費上昇、積載効率低下、空荷走行の重なりで配送コストは上振れ。責任者の仕事は「単体打ち手の羅列」ではなく、在庫の持ち方+補充ルール再設計/納品頻度見直し/受け取り方法改善/共同配送拡張の組み合わせで、体験維持と採算確保を両立する供給設計へ移行します。

●DX・自動化は「段階導入」
紙・FAX・勘依存のオペは根深い。完全無人化へ一足飛びではなく、
見える化ダッシュボード → 予約枠管理 → 標準作業化 → 部分自動化が現実的です。投資は、在庫・輸送管理システム/倉庫の部分自動化(AMR/AGV)/置き配・ロッカー/排出量可視化をROIで比較して意思決定。小さく始め、効果が出たら広げる----これが「経営基盤」への定着の最短ルートです。

4. 2026年の前提──AI・環境・柔軟供給が当たり前に

AIは日常のツールへ
需要読み、在庫適正化、配送ルート再構築などで、AIは毎日の運用に溶け込むツールへ。中小規模でも基本機能から段階導入し、外部パートナー連携で十分な効果が得られます。目的は、過剰在庫と欠品の同時回避=「程よい供給」の持続です。AI活用はSCMの「経営基盤」高度化そのものと捉えるべきです。

●環境対応は選ばれる条件
配送ルート・貨物単位の排出量可視化、積載率向上、再利用包装材は「あれば良い」から事業競争力の要件へ。スピードを維持しながら環境負荷を下げる意思決定を、日常運用レベルで回せるかが問われます。環境施策も基盤に組み込む発想が不可欠です。

●柔軟な供給体制(オムニチャネルの裏側)
季節・セール・突発需要に応じた在庫・人員・輸送資源の即時再配置が差を生みます。需要兆しの早期検知、混雑・滞留発生時の負荷分散を迅速に。ピークでも欠品・遅延の最小化を実現する運用設計が、ECと店舗を同時に支える見えない競争軸であり、変化に強い経営基盤を築きます。

5. 今後5年で求められるスキルセット──SCM責任者に必要な視座

●データ活用力
在庫、納期、積載、荷待ち、配送回数、コスト/注文、排出量を一枚ダッシュボードで見せ、意思決定を速く・正確に。指標間のバランスを説明し、経営基盤としてのSCM全体最適を語れることが必須。

●法対応の設計力
契約書面化、価格転嫁ルール、委託先の評価会などの「法対応」を、経営テーマとして仕組み化する力。順守の先にコスト構造の見える化を置き、基盤の持続可能性を高める。

●環境戦略の実装力
排出量削減をブランド価値と結びつける発想。積載率の向上や再利用可能な包装、配送ルートの最適化を、特別な取り組みではなく日常業務の改善=基盤の仕組みとして組み込むことが重要です。

●投資判断力
DX・自動化・AIの導入順序を整理し、「ROI(費用対効果)」で説明。可視化→予約管理→標準化→部分自動化の段階導入と、撤退基準の明確化で、基盤の健全性を保つ。

●組織巻き込み力
店舗、倉庫、配送、商品部、法務・経理、委託先までを束ね、標準化と定着を進める力。役割分担・目標管理の明確化と定例レビューで運用を回し続け、基盤運用の再現性を担保。

まとめ──「変化の設計者」としての覚悟

2025年の小売は、人手・時間・コスト制約と法改正が重なる構造問題に直面。2026年は、AI常用化、環境対応の条件化、柔軟供給体制の標準化、荷主義務の本格化が前提です。
SCM責任者に求められるのは、現場の不満を数値で捉え、法の要請を味方にし、投資の順序を正しく決め、仕組みに落として日常運用で成果を出し続ける力。属人的な頑張りではなく、安定しながら進化し続ける仕組みを築くこと。そのための可視化・設計・投資・定着を一気通貫でリードできる人材こそ、次のキャリアで最も評価されます。
「モノの流れ」を経営の中心へ。SCMを企業の「経営基盤」として捉え、成果の再現性を示せる方は、欠品・遅延の減少、コストの適正化、顧客満足とブランド信頼の維持を、毎日の運用で実現し、企業の成長を支えていけます。

写真:藤岡 靖子

執筆者藤岡 靖子

ディレクター

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