グローバル展開フェーズで加速する消費財・外食企業のM&A戦略と、"海外事業責任者"キャリアの新潮流 (2025.11.07)

キャリアインキュベーションの村木です。
日本の消費財・外食業界ではここ数年、グローバル展開やM&Aをきっかけに経営体制を再編する動きが急速に進んでいます。国内市場の成熟を背景に、企業が新たな成長ステージを目指して海外ブランドの買収やパートナー提携を進めるケースが増えており、その中で「海外事業責任者」というポジションが注目を集めています。
こうした企業に共通するのは、商品やブランドの競争力を持ちながらも、海外展開を担う"人と仕組み"がまだ整っていないという点です。現地での販売体制、ガバナンス、オペレーション、サプライチェーンなど、ゼロから仕組みを立ち上げていく余白が大きく、経営視点を持つマネジメント人材にとっては挑戦の機会が広がっています。今回は、グローバル展開フェーズで進むM&A戦略の潮流と、そこで求められる「海外事業責任者」キャリアについて考えてみたいと思います。

なぜ今「海外事業責任者」なのか

ここ数年、消費財や外食など生活者に近い業界で、「海外事業責任者」ポジションに注目が集まっています。背景にあるのは、日本国内市場の成熟と、海外市場での新たな成長余地の拡大です。
日本貿易振興機構(JETRO)の調査によると、海外子会社を持つ企業の約6割が「現地人材の確保と育成」を最重要課題に挙げています。
出典:https://www.jetro.go.jp/world/
つまり、単なる販路拡大ではなく、海外市場でブランドを育てるための「経営人材」が不足していることを意味します。
かつての海外展開は"輸出"や"現地販売拠点の設立"が中心でしたが、いまは自社ブランドの買収や現地企業との資本提携など、M&Aを軸にした戦略へと移行しています。こうした中で、現地市場の構造理解、ブランド統合、経営管理までを一気通貫で担える"海外事業責任者"が求められているのです。

消費財企業におけるM&AとPMIの進化

消費財業界では、ここ数年で「グローバル化×M&A」を軸にした事業再構築が広がっています。
資生堂は2021年にパーソナルケア事業をCVCキャピタルに売却し、高収益な海外ブランドへの集中を進めました。
出典:https://corp.shiseido.com/jp/ir/

花王は東南アジアで化粧品・日用品メーカーとの提携を深め、ASEAN市場でのプレゼンスを強化しています。
出典:https://www.nikkei.com/

コーセーも中国・韓国の現地ブランドと協業しつつ、欧州事業を整理するなど、「選択と集中」を鮮明に打ち出しています。
出典:https://www.wwdjapan.com/

ユニ・チャームはインド・ASEAN地域で積極的に現地法人の買収を進め、海外売上比率が6割を超えるまでに成長しました。
出典:https://www.unicharm.co.jp/ja/csr/report.html

また中堅企業でも、海外ブランドの代理店契約や合弁設立など"スモールM&A"が加速。JULIA IVYが韓国スキンケアブランド「トロイアルケ」の日本総代理契約を締結した例は象徴的です。
こうした動きに共通するのは、「ブランドの多国籍経営」を前提とした体制づくりです。

外食企業におけるグローバル化と現地経営

一方、外食業界でも海外展開が本格化しています。
トリドール(丸亀製麺)は東南アジアを中心にFC・直営の両輪で展開し、2025年までに海外店舗比率を5割へ引き上げる計画を掲げています。
出典:https://www.toridoll.com/

スシローを展開するFOOD & LIFE COMPANIESは、東アジアを中心に店舗網を拡大し、現地メニュー開発や物流網整備に注力。
出典:https://food-and-life.co.jp/

また、コメダやロイヤルホールディングスもアジア諸国で現地パートナーとの合弁・フランチャイズ展開を進めています。
こうした企業に共通するのは、"店舗ビジネスの現地化"が成功の鍵であるという点です。
単に日本の味を輸出するのではなく、現地の嗜好や文化を理解しながらブランドを再構築していく。
このプロセスそのものが、製品ブランドを統合するPMIと極めて似ています。
つまり、外食の海外事業責任者も「経営統合を伴う現地経営者」としての役割を担う時代に入ったのです。

共通テーマ:PMI×ローカル経営の難易度

消費財も外食も、成功の鍵はPMI(Post Merger Integration)と現地マネジメントの融合にあります。
買収後のブランド統合、KPI再設計、組織ガバナンス、人材マネジメント──いずれも机上では完結しません。現場の文化や価値観を理解し、現地組織を巻き込む力が求められます。
近年は、現地CEOやリージョナル統括責任者が本社経営会議に常時参加するケースが増えています。
P/L責任を持ち、地域ごとに中期経営計画を策定する体制が整い、
海外責任者=事業経営者という構図が定着しつつあります。

海外責任者→CxOキャリアパス

海外事業責任者の経験は、経営幹部登用の最短ルートになりつつあります。
アサヒグループではASEAN統括経験者がCFOやCEOへ昇格する事例があり、ユニ・チャームでも海外法人代表が本社執行役員に登用されるケースが増えています。
出典:https://www.asahigroup-holdings.com/ir/financial/highlight.html

共通するのは、「海外でのP/L責任」が次世代CxOの登竜門になっている点です。
日本本社の一部門を率いるよりも、海外で事業全体を動かす経験の方が経営を立体的に学べる。
今後は「国内→海外→グローバル本社」というキャリアステップがより一般化していくでしょう。

業界を越えて広がる"海外責任者"キャリアの可能性

消費財も外食も、グローバル市場での競争は新しい局面に入っています。
共通するのは、"ブランド経営を通じて現地市場とつながる力"を持つ人材の重要性です。
消費財企業ではブランドを統合し、外食企業では文化を翻訳する。
形は違えど、どちらも「現地でブランドを育てる」ことが核心です。
日本企業が再び世界市場で存在感を高めていく中で、
海外事業責任者は、経営と現場をつなぐ最前線の存在として、
これまで以上に大きな役割を担っていくでしょう。

キャリアインキュベーションでは、
海外展開やM&Aを含む事業開発領域でのマネジメント人材採用・キャリア支援を多数手がけています。
グローバル領域でキャリアを広げたい方は、ぜひお気軽にご相談ください。

(村木)

写真:村木 大輔

執筆者村木 大輔

マネージング ディレクター

●PEファンド投資先の小売業、外食業を中心としたコンシューマー業界のCEO、COO、CMOを中心としたCxOポジションを担当
●日系オーナー企業の小売業、外食業を中心としたコンシューマー業界の部長職から~CxOのマネジメントポジションを担当

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